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囲碁と仕事、宇宙 2013年7月
浅 野 良 裕
最近企業研修に「囲碁」を取り入れている会社が出てきており、結果は好評のようです。囲碁は、黒石と白石を交互に打ち、地(領地)の広さを競い合うといった簡単なルールです。しかしながら、チェスでは世界チャンピオンがコンピューターに負け、将棋では現役プロ棋士が負けてきたのに対して、ハンディを付けなければまだまだアマの高段者でもコンピューターソフトには負けないほど奥は深いものがあります。初心者でも楽しめる簡単なルールでありながら、きわめて奥が深く一生をかけてもマスターすることは困難であり、また世界的、歴史的に定石や考え方が変わり、進化しているようです。企業研修に取り入れられるということは、仕事においても活かせるということでありましょう。囲碁を打つ場合重要なのは、常に局所(部分)と全体を同時に見ることです。相互の石が競り合う場合でも、一つの石が置かれた場合の影響は盤面全体にまで及ぼします。初心者は石が置かれたその部分しか見えず、また先を読むことが困難です。しかし実力がついてくるに従って、その部分だけでなく、全体の情勢、盤面の各部に与える影響や、何手も先の未来まで、相手が打つ手の予想も含めて見えてきます。仕事でも同じで、初心者のうちは目先のこと、狭い範囲でしか見えなかったものが、成長していけば、だんだんと広い範囲、先のビジョン、人の考え等も見えるようになってきます。先を読む場合に、論理的な思考と感覚的な判断の両方、また直感等を使います。論理的な思考だけならコンピューターの方が計算も速く優位ですが、特に石があまりない状況では無限に近い可能性があるため、感覚的または直感的な要素が重要になります。石の効率とか、石の形の美しさ、盤全体のバランスとかが判断材料かもしれません。囲碁ではまた、同じ場所に石を置くのでも、その手順(順序)が違うと全く別の結果になることがよくあります。これは先ほどの一つの石が加わることで全く別の世界になること、また相互に石を打ちあうので、予想通りには動きにくく、数手で全く状況が変わることも稀ではありません。その意味では相手との共同作業、共同創造の作品です。これまでの囲碁は、序盤(布石)、中盤(戦い、石の競り合い)、終盤(寄せ)と局面は大体順番に動いて行きました。布石では全体の構想、ポイントになるところを打ち、中盤でお互いの石が接近して競り合い、戦いが起こり、それが一段落して盤面が石で埋まってくると、終盤の寄せに入ります。このそれぞれの局面で定石というものがあり、長年の経験や理論から同じ局面では定石通りに打つことが正しいと思われてきました。定石や布石から進行する形が主流の時代には、日本は国際的にトップの座を維持してきましたが、この十数年、韓国や中国に押されて国際棋戦で勝てなくなってきました。韓国や中国はこの定石や布石にとらわれず、最初から盤面全体を見て最強の手を考え、戦いを始めることも多いようです。定石等をゼロベースで再定義することは、今の人類の歴史状況の一部ですから当然のことかもしれません。これまで見てきたように、囲碁は仕事や人生、歴史等と多くの点で似ており、そこから学ぶことも多いと思います。19路×19路の361の点の中に宇宙のエッセンスが含まれているともいえるかもしれません。
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