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中期経営計画の立案 ~そのプロセスとポイント~
中期経営計画とは具体的には、5年後の自社の「あるべき姿」を実現するための道筋を示したものです。(ただし、中期経営計画を立案する前に経営理念が策定されていることが必要です。経営理念の策定については→こちら)5年後の自社のあるべき姿をイメージし、そこから現状の自社を振り返ったとき、そこには何らかの"違い"があるはずです。その"違い"をいかにして5年間で修正していくかを考えることが、中期経営計画立案のプロセスです。
(1)中期経営目標の策定→ゴールの設定
まず、5年後の自社の姿(ビジョン)を考えます。具体的には以下のポイントなどを中心に、多面的に考えていきますが、特に数値目標は明確にしておく必要があります。
1.数値目標
- 売上高及び利益をどれくらい見込むか?
- 利益率(限界利益率)を何%とするか?
- 資本効率を何%とするか?
2.マーケティング(顧客創造及び顧客維持活動)
- 5年後にはどのような顧客層をターゲットとするか?
- そのターゲットにどのような商品を、どのような販売方法で提供し、どれくらいの売上を見込むか?
- 業界または地域における市場占有率はどれくらいを目指すか?
3.組織
- 5年後の自社の従業員規模はどれくらいにしたいか?
- 店舗数、支店数はどうするか?
- 組織の形態はどうするか?
4.コスト
- 5年後のコストの目標は?
- 時間コスト(リードタイム)、スペースコストなどをどこまで削減するか?
- 不良率、仕損率、欠品率などをどこまで改善するか?
(2)現状分析の実施→スタートラインの設定
中期経営目標をゴールと考えるならば、現状分析はスタートラインを考えるということになります。現状分析を行なうことにより、自社の現状と自社を取り巻く外部環境の真の姿を考えます。
現状分析には以下の2つのプロセスがあります。
1.外部環境分析
a.一般環境分析
政治・経済・社会・文化などの一般的な外部環境について、現状の分析と今後の変化の予測、そこから生じる当社にとってのチャンスとリスクの分析
b.市場、業界環境分析
市場及び業界環境について、現状の分析と今後の動向予測、そこから生じる当社にとってのチャンスとリスクの分析
c.競合環境分析
現状の競合他社の経営力、得意・不得意分野、競合同士の力関係の確認、今後の競合他社の動向予測とそこから生じる当社にとってのチャンスとリスクの分析
2.内部環境分析(自社にとっての弱み、強みの認識)
5年後の自社のあるべき姿(ビジョン)から現状を振り返り、現在の自社に不足している経営資源や、競合と比較して劣っている点、現在顕在化している経営上のリスクなどの”自社にとっての弱み”と、逆に、現在の自社の得意分野や、競合よりも優れている点、現在顕在化している当社にとってのチャンスなどの”自社にとっての強み”を多面的に検討していきます。
a.マーケティング分析(マーケティングは顧客の立場に立って考えます)
- 現在の顧客(ターゲット)及び市場占有率(シェア)について
- 現在自社が取り扱っている商品・サービスについて(ライフサイクルの位置、価格妥当性、品質など)
- 現在の商圏(エリア)について
- 現在の販売方法(営業、広告など)について
b.自社組織分析
- 現在の自社組織のレスポンス、機動力について(情報に敏感か?決定事項を迅速に実行しているか?)
- 現在の自社の給与体系、業績評価システムについて
- 経営者、経営幹部の指導力及びリーダーシップについて
- 役員及び従業員のポテンシャル、チームワークについて
c.コスト分析
- 会計的な原価及び経費(ランニングコスト)について
- 業務プロセス、生産プロセス、リードタイムなどの時間的な効率について
- 倉庫や工場、店舗などのスペース効率について
- 不良率、仕損率、欠品率、返品率などの機械的または人為的なミスについて
(3)戦略的行動計画の策定
(1)においてゴールを、(2)においてスタートラインを設定した後、次はどのようにしてゴールにたどり着くか?その道筋を考えます。
この戦略的行動計画は、中期経営計画の中で最も重要なプロセスです。すなわち経営者にとって最も重要な仕事のうちの1つであると言えるでしょう。具体的には
”外部環境分析及び内部環境分析から得られた現状をどのようにして変えていくのか?”
この「どのようにして」に対する答えが戦略的行動計画です。したがって、戦略的行動計画の出来如何によって、経営計画の実現可能性が大きく変わってしまいます。さらに、この戦略的行動計画は、これを実行する従業員や取引先などの利害関係者に同意(コンセンサス)を得られるものでなければなりません。
つまり、経営者は自らの知恵と勇気を最大限注ぎ込み、現時点でベストと思えるものを考え、明確にしておかなければならないのです。
以下に一般的な例を示します
- 顧客第一主義を実践し、顧客満足度の高い商品を提供することによって、シェア拡大を目指す
- あらゆる媒体を使って当社及び当社商品のブランド力、認知度を高める
- 提案型営業を展開し、既存顧客の潜在ニーズを顕在化させ、新たな市場を開拓する
- 少数精鋭・適材適所を実施し、組織の機動力を高めると同時に人件費の効率を上げる
- 当社の定型業務をIT化し、コストダウンを図る
- 業務プロセス・生産プロセスを見直しコストダウンを図ると同時に、全体最適化を目指す
(4)アクションプランの策定
戦略的行動計画が企業全体の方向性を定めるものに対し、アクションプランは、各部、各課、各人のレベルにおけるより具体的で実践的な行動計画です。当然のことながら、アクションプランは戦略的行動計画にリンクされ、中期経営目標(ゴール)の達成に貢献するように策定されなければなりません。
アクションプランを考える上でのポイントは
”どの部(どの課または誰)が何をいつまでにどれくらい達成するのか”
ということです。また、アクションプランは定量的な目標を設定することが重要です。以下に例を示します。
- 営業部は提案営業を強化し、既存顧客に対する新規提案件数を1年後までに1.5倍にする
- 経理部は使用する紙の量を2年後までに半分(50%)にする
アクションプランは、中期経営計画の中で最もボトムに位置しますが、すべての計画の始まりでもあります。したがって、戦略的行動計画と同様に非常に重要なフェーズといえます。
(5)数値計画の策定
数値計画は、会計数値(変動損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書)を使って現状(スタート)から5年後の自社(ゴール)までの道のり、即ち、戦略的行動計画とアクションプランの達成度合を定量的に表すものです。
したがって、数値計画は戦略的行動計画及びアクションプランと整合性の取れたものであること、そして、中期経営目標(数値目標)と最終的に合致させることが重要なポイントです。
この数値計画では具体的には5ヵ年の
- ① 売上・原価(変動費)計画
- ② 販売費及び一般管理費(固定費)計画
- ③ 採用・昇給計画
- ④ 回収・支払バランス計画
- ④ 投資及び借入金返済計画
などを基本に各年度の変動損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書を作成することになります。
(6)当期経営目標の確認
最後に当期の年度計画をもう一度確認します。当期の年間売上高や利益などの数値目標を設定し、戦略的行動計画・アクションプランの中から当期の重点項目をピックアップして、当期中にクリアすべき目標を明確にします。
以上、中期経営計画立案のプロセスとポイントについて簡単に説明しました。
ところで、中期経営計画は5年間を1つのタームとしてとらえています。しかしながら、現在は変化のテンポが速いため、少し時が経てば企業を取り巻く環境が大きく変わっているということも充分考えられます。したがって、一度中期経営計画を立てたからといって、その後の5年間、中期経営計画を立てなくても良いというわけではありません。やはり一定の時期(例えば1年後)に見直しを図る必要があります。
その時の状況に照らし、以前に立案した中期経営計画が合致しないと思われるときには、迷わず計画の見直しをすることが、中期経営計画を実際の経営に生かす上でのポイントです。
(注)このコンテンツの内容は、一般的な中期経営計画の策定方法であり、個々の企業の条件により重点の置き方が変わってきます。また、当会計事務所が開催する中期経営計画立案セミナーでは、内容を一部簡略化してあります。予めご了承ください。
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