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SFと現実 新しい生活様式
コロナ危機に伴い昨年からパンデミック関連の書籍が見直されている。カミュの「ペスト」や小松左京の「復活の日」等々。
1947年に発刊された「ペスト」は北アフリカの町に突然現れたペストに立ち向かう人々の人間模様を鋭く洞察して描いている。最初はネズミの死という僅かな兆候が徐々に拡大し、人々の発病が増加しパンデミック、都市封鎖へと至る過程が現在の新型コロナパンデミックを予想したように描かれている。
この人間から見れば不条理と思われる状況の中で、医師、新聞記者、僧侶、よそ者等様々な人々が、それぞれの抱えている個別の事情を抱え対立しながらも、次第にこの状況に適応し協力して対処している様子が描かれている。
ペスト自体は中世では黒死病と呼ばれ、人口の何割という多くの人々が死亡するという恐怖の感染症として知られていたが、この小説を読むと人間の意識や行動は今もあまり変わらないと感じられる。
この「ペスト」が小説というジャンルに入るのに対して、「復活の日」はSFというジャンルに入る。SF、Science Fiction科学小説は、通常の小説が人間の心理や行動を中心に描いているのに対して、その人間の行動の基盤になる科学的根拠まで描き、結果的にその基盤、現実の制約条件を超えた未知の世界まで想像できることになる。
「復活の日」は1964年に発表されたが、カミュの「ペスト」も意識され、それが人々の意識行動の描写に活かされているとともに、「ペスト」では原因不明で不条理と考えられていた感染症の原因、根拠まで描かれている。ウィルス学は20世紀の終わりごろから黄金期を迎えるが、この発刊当時はまだ手探りの発展段階にあり、作者の小松左京は最新の資料を研究するためにアメリカ文化センターに日参した。
このパンデミックの原因となるMM-88は空気感染、致死率100%の生物兵器として造られた。この生物兵器を研究していた科学者があまりの威力に怖くなり、この治療薬等を開発するため行動する途中で事故に会い、ウィルスは世界へ拡散していく。
最初は風邪のような症状で始まり、症状が急速に悪化していくので「チベット風邪」と名付けられたが、世界中に急速に拡がり僅か半年ほどの間に、南極大陸の1万人を残して人類は絶滅してしまう。このMM菌の正体はウィルスだが、核酸だけ遺伝子だけのウィルスであり、体内に入るとすぐに溶解し、細胞の遺伝情報に組み込まれ原因を特定できない。
その後地震を核攻撃として認識したAIの核反撃システムが作動し、全面的な核戦争となり世界は2度絶滅する。しかし使用された核兵器は生物だけを殺傷する中性子爆弾だったのでウィルスは死滅し、南極に閉じ込められていた人類は災厄から10年後、人類・文明の復活のために世界へと出発する。
「復活されるべき世界は、大災厄と同様な世界であってはならないだろう。とりわけ“ねたみの神”“憎しみと復讐の神”を復活させてはならないだろう」と人類全体の理性を信頼する作者は語る。コロナ後の新しい生活様式はどのようなものになるのだろうか。
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